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ハロー、あなたに

ハロー

今日も朝から雨が振ってるね。最近の空模様は不安定なことが多くて、君が風邪を引いてしまわないか僕はとても心配です。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは元気でやってます。多分知っているだろうけど、僕は雨が好きなんだ。昔は雨が降る度に同じ話ばっかりしてたよね。僕は雨が好きなんだって、君はその度に笑っていたね。あなたがあんまりにも上手に笑うから、僕はいっつも調子に乗って話してしまうんだ。知ってた?僕は君の笑った顔が見たくて、毎回同じ話をしてたんだ。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちはなんとかやってます。僕は雨が好きだけど、こう毎日降られると少しだけ気分が滅入っちゃうね。そうだ、僕の好きな雨が秋から冬にかけて降る冷たい雨だって話はしたかな?なんて聞いてみるけど、したよね。また困らせちゃったかな。あの頃は雨が降る度に同じ話ばっかりしてたけど、君が飽きてしまわないか心配だったんだ。だから色んな雨の話をしたんだよ。知ってた?僕の話は同じような話ばかりだったけど、どれも少しずつ違う話だったんだ。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは少しだけ忙しくなりました。そういえば僕らが出かける時はいつも雨が降っていたね。君は自分のことを雨女だと言って、いつも悲しい顔をしていたけど、本当は僕が雨男だったんじゃないかな。いつも僕が雨の話をしてたのに、なんで気付かなかったのかな。君は優しい人だから、僕を責めない理由を作っていたのかな。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちはまあ、大変です。君は煙草の煙が嫌いだったから、僕は毎日ベランダで煙草を吸っていたね。でも、君は煙草の煙が嫌いなくせに、僕が煙草を吸う時には一緒にベランダに出て来てたよね。雨が降る日も、一緒にベランダに出て、二人でぼーっとしながら雨を眺めていたね。君は自分が雨女で嫌だと言っていたけど、雨が降っている日の君はとても美しかった。そう言うと君はちょっとだけ困った顔をしてありがと、って言ってくれたよね。また困らせちゃったんだね。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは結構大変です。雨が強くなってきたね。さっき傘をさして歩いていたら、今の君に会いました。君は笑っていたのかな。三年前の君は泣き虫で、僕はいつも君を困らせて、君はいつも泣いていたね。ごめんね。雨が降ると、三年前の君がまた泣いてるんじゃないかって、心配してしまいます。

ハロー、元気でやってますか?

ハロー、今のあなたは笑ってますか?

こっちはまだ、雨が止みません。


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誘い

僕のアパートは大学から徒歩3分、スーパーから徒歩5分、駅から徒歩10分と比較的便利な場所にある。


大学4回生にもなると頭の悪い僕でも講義の数は激減し、その日も15時を回る頃には家で暇を持て余していた。やることもなくいつものように一人で煙草をふかすというルーティーンの作業に従事していると、ガチャリと玄関が開く音が聞こえた。許可も無しに勝手に家に侵入したそいつはズケズケと部屋の中に入って来る。

「よう」

他人の部屋に何の許可も無く堂々と入って来るおよそデリカシーという概念を持ち合わせていないこの男は小野という。小野は僕の数少ない交友関係のサイクルの中心近くで堂々と胡坐をかいて座っている友人なのだが、友人と言ってもただ単に気が合ったから一緒に行動してるような関係であり、お互いが互いのことにはあまり干渉しようとしなかった。

「相変わらず何も無い部屋だなあ」

小野はいつもの憎まれ口を叩きながら煙草に火を点けた。

「余計なお世話さね。今日は何しに来たんだ?」

僕は訊ねた。

「なんだい冷たい言い方しやがって、今日は面白い事を思いついたんでその話を聞かせに来たのに。」

煙草の煙を吐き出しながら小野が言った。

「面白い事?」

「この家の裏に小さな山があるだろ?そこの山の頂上に小さな社があるらしいんだよ、でな?夜中にそこに行くと出るらしいんだ。今夜行ってみないか?」

「なんだよ、ただの肝試しか。そんなもん面白くとも何ともないわ。」

「つれないこと言うなよ。」

何を言い出したのかと思えば肝試しの誘いだった。特に予定も無かった僕は少し怖さを感じながらも付き合うことにした。

僕も小野も全くと言っていいほど霊体験などしたことがなかったためホントに出るだなんて微塵も思っていなかった。ただ暇さえ潰せればそれでよかったのだ。

どうせ行くなら深夜に行こうということになり、そのまま二人で時間になるまで酒を飲みつつ怪談話をしながら時間を潰していた。

「どうせだから時間になるまで百物語でもしよう」

と、小野が言う。

「雰囲気が出てよろしい。しようしよう」

お酒を飲むと気が強くなる性質の僕はそれはもうノリノリだった。

百物語というとひとつ話をするごとに蝋燭を消すのが普通だが、そこまで本格的にするつもりも無かった僕らは話をするごとに一口酒を飲む。という流れで百物語を進めていった。

そして百物語も大体半分くらい進んだ頃、ふと時計を見ると一時を回っていた。僕と小野は顔を見合わせ、のそりと立ち上がった。

「ぼちぼち行くかね」

「うむ」

外に出た僕らは裏山へ向かって歩き始めた。これから心霊スポットに行くのだが、そこは僕の家から近いこともあり怖いという感情は少しも湧きあがって来なかった。二人でさっきの百物語について話しながらひたすら歩いていた。


どんどん歩いて行くと、やはり山ということもあってか街頭が段々少なくなっており、辺りはほとんど真っ暗になっていた。酔っていたとはいえ流石に懐中電灯を持ってこなかったのはまずかった。

山を登り始めてから30分くらいたった頃には、周りの静けさと暗さも手伝って二人ともすっかり無言になっていた。

ふいに小野が話しかけてきた。

「…なあ」

「・・・・・?どうした?」

「俺この辺は何回か通ったことあるんだけどさ、やっぱ夜ってこともあってちょっと道が分からない、お前、俺らが今どの辺に居るか分かるか?」

「は…?何言い出すんだよお前は、この辺は大学に入った頃二人であちこち探検したじゃないか。もしかして方向音痴なのか?」

「いや、方向音痴ではなかったと思うんだがどうにも暗くてよく分かんなくなったみたいだ。というか、前に来た時こんな道あったか?」

何を言ってるんだこいつ?大体社へ行く道はほとんど一本道だから迷う訳が無いじゃないか。と思ったところで違和感に気づいた。社まで行くのってこんなに時間かかったっけ?

「なんか変じゃないか?」

小野が怖々とした声で言った。

「そうだな…何か変だ。もう帰ろうぜ」

「あ…あぁ」

社へ行くことを諦め、僕らは来た道を戻り始めた。街頭もなく足元もよく見えない状態だったが早く帰りたい気持ちで一杯だったため足は自然と早くなる。

少し戻ったところで僕の足が止まった。

「おい!何止まってんだよ?」

小野が急かした声で聞いてくるが、目の前の光景を見てすぐに口を閉ざした。

僕らの目の前には分かれ道があった。おかしい。これは絶対におかしい。さっきも説明したように山に入ってから社までは一本道で分かれ道なんて無いはずなのだ。

一体どういうことだ、何故一本道の筈の道が枝分かれしてしているんだ、どっちに行けばいいのか、頭の中からぐちゃぐちゃと音がしそうな程僕は混乱していた。

混乱しながらも、とりあえず山を下ればどこか知っている道に出るだろうと考えた。

「と、とりあえず下ろう…」

自分でも驚く程ぷるぷると震えた声が出てしまい、驚きと恥ずかしさを悟られぬようにしながら小野に提案したのだが、小野から返事は無く、肌寒い風邪が木々を揺らす音だけが僕の耳に鳴り響いた。返事が無い事を不思議に思い振り返ってみて愕然とした。

振り返った先に小野の姿は無かった。

ただでさえ混乱していた僕の頭はオーバーヒートを起こしその思考を完全に停止した。そしてすぐさま踵を返し一目散に山を下り始めた。

何も考えずただひたすらに走った。先程まで耳に響いていた木々のざわめく音も聞こえず、月明かりに照らされた道を、どこへ繋がっているか分からない道を走り続けた。

何分走ったのか分からないが、気がつくと家の近くのコンビニが見えてきた。僕はひとまずコンビニに入り落ち着こうと思った。コンビニに入った時、汗だくではあはあと息を切らせている男を見て店員さんは「ひぃっ」とかすかに声を挙げた。

落ち着いてから水を買いそれを飲み干した後、家路に着いた。汗でびっしょり濡れた僕の体は少しの風が吹くだけでもゾクゾクと震え、その度に先程の恐怖が頭をよぎった。

もう二度と裏山には近づかないと固く心に誓った。たまたま今回は家に帰り着くことができたから良かったものの、もしまた裏山に登って道に迷ったらもう戻って来れない。何故だか戻って来れなくなるという確信があった。

そもそも今日裏山に登ったのが間違いだった。煙草を買いに出かけただけなのに散歩なんぞしてみようと思ったのがいけなかった。中途半端な好奇心程怖いものはない。くわばらくわばら。

早く帰ってシャワー浴びて眠ろう。僕はそう思い、家路に着く足取りを早めた。