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君を想うが故に、僕は微笑む。

ひとりで居る時間が好きだ。

友人らと一緒に過ごす時間もかけがえのない大切な時間なのだが、それと同じくらい、ひとりで居る時間も尊く、大切な時間だ。


今日は僕とお付き合いしている人の誕生日が近いということで、プレゼントを選ぶために天神へと出向いた。

普段はひとりで行動することが多い僕だ。いつも目的を定めず、自由気ままにふらりふらりと歩き回ることが多い。目的を定めない方が僕の探究心とか、子供心をくすぐる行き当たりばったりな物事と遭遇することが多く、いつだって僕に新しい感性を与えてくれる。


しかし今日は、誕生日プレゼントを買う、という目的を持って行動しているため、いつもとは異なる『ひとりの時間』を過ごすことになる。

いつもとは違う、『自分の為』ではなく『相手の為』に費やす時間。果たしてその行動は僕に何を与えてくれるのか。胸の内でわくわくしながら、天神行きのバスへと乗り込んだ。



バスを降りると、迷うことなく地下街へと足を進めた。毎日毎日バイトへ向かう際に通る道だ。

見慣れている景色も、意識を変えて見てみると随分と姿を変えているように思える。いつもは見ない女性用の洋服屋へと目を向ける。店先では店員が笑顔を浮かべながらお客さんと話をしていた。


見知った街の中でも、自分の知らない人が自分の知らない生活を営んでいる。


当たり前のことなのだけれど、こういう時でないと思うことはないそんなことを、外に出かけるといつも感じさせてくれる。

ぼんやりとお店を横目で眺めながら、何をプレゼントしようかを考える。

そういえば、あの人が少し前にTシャツが欲しいと言っていたことを思い出す。先程以上に周りの洋服屋さんに目を向け始めた。季節は移ろい、気がつけばもう春だ。店先にも春らしい爽やかで華やかな服がディスプレイされており、そのことを認識した時、改めて春であるということを思い出す。


地下街を一通り回り終えたが、僕の琴線を鳴らすような品とは出会えず、僕は頭の中でぐるぐると何がプレゼントとして最善の品なのか思案を巡らせながら、警固公園へと赴いた。

警固公園の喫煙所では、スーツ姿の社会人やカップル、年をとったおばさんたちが所狭しと灰皿の周りを埋め尽くしている。最近では喫煙者の肩身も狭くなった。4月から駅構内の隅の方に申し訳なさそうにたたずんでいた喫煙所もとうとうその姿を消し、同じく大学構内の喫煙所も随分と縮小された。

一体誰が人より多く税金を払ってやっているんだ。と憤りを感じつつ、煙草を吸った。隣ではカップルが愛を囁き合っていて、何故だか僕はうっすらと笑いを浮かべてしまう。


三越デパートへと足を運んだ。一階から順にお店を見て回る。あの人にはこの服を着て欲しいな、うお、あの服いやらしいな、やっぱり清楚な服が似合うんだろうなー、空想をし始めると止まらない。僕がプレゼントした服を着たあの人との日常を想像すると、一人でなんだか照れてしまう。僕はさぞかし気味が悪かっただろう。

デパートの七階だったか八階だったかは忘れてしまったが、店内の脇の方にティーカップが置いてある店を見つけた。



ああそうだ。あの人は紅茶が大好きだ。



いつもデートの待ち合わせをする時、あの人はいつも紅茶のお店で時間を潰していた。ミクシイやフェイスブックでも、頻繁に自分の淹れた紅茶の写真をアップして、楽しそうにしていたことを思い出した。

思い出すと同時に、ティーカップを食い入るように見始める。名前も知らないブランドのティーカップを、一つ一つ丁寧に見つめて回る。どうしてティーカップは、どれも同じ形をしているのか。生まれてから四半世紀経った今でも、分からないことは分からない。先ほどプレゼントにと考えていたTシャツのことは、とうに忘れていた。

僕の心を躍らせるティーカップは、四店目で見つかった。レトロチックなデザインが印象的な、オランダのデザイナーがデザインしたティーカップ。少しだけ値段が高い気もするけれど、そういうもんなんだと、思うようにした。


買い物を済ませた僕は、家路に着く為にバス停へと向かう。歩いている途中に、三越デパートの地下街から鼻孔を刺激する匂いが漂ってくる。


じきに日が暮れる。


ふらりふらりと、デパ地下の匂いに誘惑されながら歩いた。

照明が眩い店内の中、ショーウィンドウの中に出来たての料理が「温かい内に食べてくれ」と言わんばかりに匂いを撒き散らしている。

ふと目に止まった揚げ物の店で、牛肉コロッケを頼み、店内のベンチで食べた。したたった肉汁が口からあふれ出し、あごの近くまで下りてくる。僕は慌てて腕で拭ったのだけれど、肉汁は腕の裾で肌じんわりと広がっていた。仕方なく腕まくりをし、再び店内を歩いた。

夕方になると無性にビールが飲みたくなる性質の僕は、次から次へと目に飛び込んでくる料理に心躍らせるのだけれど、しかし、その目は、しっかりと、ビールに合う食べ物を求めた。

エスカレーターの脇を通り抜けてすぐに、トンカツ弁当を見つけ、釘づけになった。一度「これだ!」と思った時の僕の動作は速い。次の瞬間には財布を取り出し注文を済ませていた。

デパ地下を去りバスへと乗り込む。傾きを増した日差しが、街行く人を包み込むように照らしている。バスの中から眺める人々は、夕陽の所為かひどくゆっくりした動きのような気がして、なんだか可笑しくなった。

帰ったらすぐにビールをあけよう。最初の一口を、ゆっくり、じっくりと味わって飲もう。それから、トンカツ弁当を食べ始めよう。そんなことを、時速60キロで動くバスに揺られながら思う。裾についた肉汁の染みは、とうに乾いていた。
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