FC2ブログ

忘年会

4年程前のこの季節、忘年会と称し貰ったばかりの給料を手に握りしめ博多から中洲へと徒歩で向かった。気分は高揚し上がったテンションのやり場をおっパブに定め、途中何度も走っては息切れしたことを覚えている。中洲に着くと街全体がネオンライトで輝いており、桃源郷に迷い込んだのかと目を疑った。


かくして僕は快楽の園へ足を踏み入れた訳なのだけど、まだ右も左も分からぬまるでチャイルドのような僕は、道で声を掛けている深海でしか生息できないような面を引っ下げたお兄さんにだって救いを求めてしまう。瞬時に光り出す瞳、その眼は正に獲物を見つけた肉食獣のそれ。僕はそのまま深海肉食獣に手を引かれ夜の闇に溶け込んでいった。


薄暗い店内に導かれその道のプロフェッショナルを待つ。気分はすでに最高潮。速まる鼓動、息切れする動悸、反り立つちんぽ。準備は万端だ。どのタイミングでどのような角度で来たって華麗に揉みしだいちゃうぜ!今の僕なら何でも出来る。ややもすれば宇宙飛行士にだってなれるかも!その時の僕は、確かにそう思ったんだ。


「○○美ちゃん5番テーブルに付いて!」キタかッ!ざわめく店内で耳を澄ますこと5分。僕のテーブルは5番。とうとうキタね…「初めまして~○○美です♪」脳裏に響くピンク色のボイス、この声が僕の鼓膜を優しく揺らすだけでイっちゃうこともやぶさかではないぜ!よっしゃ!そうと決まれば善は急げだ!御託はいい!早く揉ませろ!はやる気持ちを抑え込む。まだだ、まだ耐えるんだ。気分はもう最終巻での夜神某のそれ。あくまでも冷静に、そして紳士的に、印象が良ければ仕事終わりに誘われちゃうことだってあるかもしれない。もしもそうであるならば、彼女が僕を求めてくるのであるならば、この身を全て彼女に委ねることもやぶさかではない。


「お隣いいですか~?」ふいに耳元に響くラブ☆ボイス。生きていて良かった。僕は心から神に感謝した。アーメン。しかしここにきてハッと気付く。声は100点中120満点だが、顔は?顔面偏差値はいくらくらいであろうか?あまりの美声とマシマロみたいなおっぱいに気を取られ、まだ女の子の顔面協奏曲にアンサーソングを奏でていないことを思い出した。


薄暗い店内で目を凝らし、今一度顔を覗き込む。風貌はギャル風、目はとろりと垂れ下がっている。股の方は緩そうだ。おっぱいの大きさは…分からん!分からんがでかい!よし!もういい!合格!


すでに緊張をほぐそうとお酒を鯨飲していた僕の中の緊張の二文字は既にアルコールに浸かっていた。今思えばそれがいけなかった。隣に座るおっぱいが叫ぶ「すごーい!お酒強いんですね!」その言葉に僕は気分が良くなるのを実感した。


これまで生きてきてこんなに女の子に褒められたことがあったであろうか。いや、否!断じて否!しかし褒められるというのは存外に気持ちいい。そうか、僕は褒めると伸びるタイプだったのか。


今なら分かる。それはきっとお客さんを気持ちよくさせるプロの気遣い(技)だったのだろうと、しかしまだ若かりし僕にそれを見破る術はなかった。そして多分今もない。その後調子に乗った僕は乳も我も忘れひたすら酒を浴び続けた。


目が覚めると僕は一人、天神は警固公園のトイレの中で便器を抱えて座っていた。昨日貰った筈の給料と、おっぱいを揉んだ記憶は、塵も残さずなくなっていた。

ハロー、あなたに

ハロー

今日も朝から雨が振ってるね。最近の空模様は不安定なことが多くて、君が風邪を引いてしまわないか僕はとても心配です。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは元気でやってます。多分知っているだろうけど、僕は雨が好きなんだ。昔は雨が降る度に同じ話ばっかりしてたよね。僕は雨が好きなんだって、君はその度に笑っていたね。あなたがあんまりにも上手に笑うから、僕はいっつも調子に乗って話してしまうんだ。知ってた?僕は君の笑った顔が見たくて、毎回同じ話をしてたんだ。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちはなんとかやってます。僕は雨が好きだけど、こう毎日降られると少しだけ気分が滅入っちゃうね。そうだ、僕の好きな雨が秋から冬にかけて降る冷たい雨だって話はしたかな?なんて聞いてみるけど、したよね。また困らせちゃったかな。あの頃は雨が降る度に同じ話ばっかりしてたけど、君が飽きてしまわないか心配だったんだ。だから色んな雨の話をしたんだよ。知ってた?僕の話は同じような話ばかりだったけど、どれも少しずつ違う話だったんだ。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは少しだけ忙しくなりました。そういえば僕らが出かける時はいつも雨が降っていたね。君は自分のことを雨女だと言って、いつも悲しい顔をしていたけど、本当は僕が雨男だったんじゃないかな。いつも僕が雨の話をしてたのに、なんで気付かなかったのかな。君は優しい人だから、僕を責めない理由を作っていたのかな。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちはまあ、大変です。君は煙草の煙が嫌いだったから、僕は毎日ベランダで煙草を吸っていたね。でも、君は煙草の煙が嫌いなくせに、僕が煙草を吸う時には一緒にベランダに出て来てたよね。雨が降る日も、一緒にベランダに出て、二人でぼーっとしながら雨を眺めていたね。君は自分が雨女で嫌だと言っていたけど、雨が降っている日の君はとても美しかった。そう言うと君はちょっとだけ困った顔をしてありがと、って言ってくれたよね。また困らせちゃったんだね。ごめんね。

ハロー、元気でやってますか?

こっちは結構大変です。雨が強くなってきたね。さっき傘をさして歩いていたら、今の君に会いました。君は笑っていたのかな。三年前の君は泣き虫で、僕はいつも君を困らせて、君はいつも泣いていたね。ごめんね。雨が降ると、三年前の君がまた泣いてるんじゃないかって、心配してしまいます。

ハロー、元気でやってますか?

ハロー、今のあなたは笑ってますか?

こっちはまだ、雨が止みません。


それでも街は廻っている

何もやることがなく、ボーっと休日を過ごしている間に他の人は一体何をしているんだろう。そんなことを考えることが良くある。

大学生の頃、当時インターネットも使い方がよく分からず友達も多くなかった僕は休日を持て余すなんてことがざらにあり、人はそんな時に考えなくていいことまで考えてしまう生き物なのだと思う。

「みんな今頃なにしてんのかなぁ」

淋しい訳ではないが独り言が多かったのもこの時期だ。何かしらを疑問に思うとどうしても口に出てしまうような、そんなカルマを僕は背負っていた。

だけど何を想像してもいまいちピンとくるものが出てこず、小さい脳みそをウンウン言わせながら悶々と時間が過ぎていくのをただただ何をするでもなく過ごす毎日だった。

そんな日々を半年も続けた頃、ある一つの仮説を立てた。もしかして僕の知らぬところではみんな何もしていないんじゃないだろうか。むしろ存在そのものが無いのでは?

僕が知らない場所で何かあったなんてニュースで流れていても妙に現実感は湧いてこないし、この世界は全て僕の妄想、思念体で作られた夢の中のような世界なのではないだろうか。然らば他人が何をしているかなんてわからないことにも合点がいく。そりゃそうだ。そんなもの存在していないのだから考えられる訳がない。

僕が目を瞑っている間は、世界なんて存在そのものがありもしない、さながらテレビの深夜放送みたいに僕が合わせているチャンネル以外は全て砂嵐で、なんにも起きていないような気がしてきた。

そう考えるとなんだか気分が軽くなってきた。



だけど現実は実際にそうではなくて、僕が知らないところでみんなはちゃんと何かしらをしているのだ。そのことを知るのはそれからまた半年がたった時だ。



大学生活にも慣れて、アルバイトも始め少しずつ友達もでき始めた頃に僕は全てを知った。

ある飲み会の席で男3人と女3人で飲んでおり、それはまあ平たく言えば合コンをしていた訳なのだけど、もう正直に言ってしまうとチンコサイドもマンコサイドもこれまでに日の光を浴びたことのないような顔面を携えた、前世で何をしたら神はそんな罰(顔面)をお与えになるのかと思うようなやつらばかりであった。

その為合コンは開始前からすでに減速を始め、始まる頃には完全に動きを止めた。動きどころか時間も止まってるんじゃねえの!?と疑う程に物音一つ聞こえない空気であった。

それでもお酒が入ることで時間も動きだし、お互い今回の合コンは諦めたのだということが目に見えてわかるような下ネタも話し始めた。

男の下ネタはロマンがあるが女の下ネタはリアルだ。という言葉の意味を知ったのもこの時だ。女どもは誰も聞いてねえよ!つーか聞きたくもねえよ!というような下ネタをまあベムベラベロと饒舌に話すのだ。

そんな魑魅魍魎の会話の中で経験人数の話が産声を挙げ、瞬く間に話題の中心に胡坐をかいて鎮座ましました。

「ねえねえ!みんな何人とヤッたことあんの!?」

一番右端のとんでもねえブスが恥じらいもなくこのセリフを吐くのを聞いて世も末だと思ったが、他の連中は完全に出来上がっており、このセリフで場はこの上ない程盛り上がり始めた。

「えー!恥ずかしいよーぅ///」

左端に座っていたろくでもねえブスが甘い声で恥らう。「お前じゃねえよ!」と叫びたい気持ちをお酒と一緒に飲み冷静な気持ちを心掛けた。

「う~ん、30人くらいかな~あとは覚えてないや」

真ん中に座っていたどうしようもねえブスが答えた。

マジか!30とかお前マジか!?

「まあだいたいみんなそれくらいだよね~」

またとんでもねえブスがとんでもねえセリフを吐きだし、それに他のブスたちは「うんうん」だの「だよね~♪」だの言い出す始末。

こ、これが世紀末か…僕はこの世の腐敗を嘆きつつも素早く財布を近くに寄せ、いつでも帰れる準備を始めたのだが、困ったことに僕以外のちんこがこの話に乗り出してしまった。

「みんな凄いねえ。僕なんて10人くらいだよ~」

「お前もすごいな。俺はまだ7人だわ」

僕の気持ちを余所にちんこたちは自分が入った穴の数をつらつらと暴露し始めた。いや、つーかちょっと待て、なんでお前らそんなセックスしとんねん。僕まだ一人やぞ。おい。

この時に長年の謎が解けた。

僕が知らないところでみんなは何をしているのか。セックスしているのである。

たぶん僕がブログを更新しているこの時も、みんなはセックスをしてるのだろう。誰も、彼も。

いつかのメリークリスマス

何年か前のクリスマス、僕は先輩の家で鍋をつついていた。

講義が終わり、大学構内のあちこちでクリスマスパーティーのお誘いが飛び交う中で、まるで川の水が流れるかの如く僕は誰にも声をかけられず校門をするすると抜け出た。

校門を出た後でも、男3人女3人の組み合わせのクリスマスパーティだか乱交パーティだかよく分からないが、おそらくそんな感じの催しをする人々が、浮き足を立てながら歩いていた。その日は快晴であったのにも関わらず頬に水が流れたことは、個人的大学七不思議として僕の思い出に鎮座ましましている。

さすがにクリスマスの夜に一人で過ごすことは精神的に大打撃を与えかねないと思った僕は、おもむろに携帯を取り出した。かじかむ手にはぁ~と息を吐きながら食い入るようにアドレス帳を眺める。

アドレス帳の中にはアドレスを交換してから一度も連絡を取ったことのない男たちと、もう思い出せない名前の男たちだけで埋め尽くされており、今度こそ間違いなく僕の周りを雨が降り出した。台風かと思った。

そんな悲しみが僕をサンドバックのようにボコボコと殴っている時、ポケットにしまった携帯電話が鳴りだした。

「すわ、クリスマスセックスのお誘いか?」

興奮しながら電話に出ると、バイト先が同じオタクの先輩からの電話だった。先程まであんなにも妖艶に光り輝いていたように見えた携帯電話は、よくよく見ると傷だらけでなんかすげー汚くかった。なんか陰毛も挟まってた。

「おう!今日ひまか?」

「まあ、彼女もいないし、予定もないですね」

「じゃあ俺ん家集合な!」

詳しい内容は聞かなかったが、おそらくバイト先のメンバーを集めてクリスマスパーティでもするのだろう。

うちのバイト先に女の子はいなかったから、男だけでクリスマスパーティか…と肩を落としたが一人で過ごすよりは幾分かマシだ。今日は飲みまくって酔いに任せてクリスマスを乗り切ろう。そんなことを考えながら先輩の家まで歩き出した。

先輩の家のドアを開けると、奥の部屋から鍋のスメルと生暖かい風が漂ってきた。おいおい、もう始めてやがんのかよ。と思い靴を脱ぎ玄関に足をかけた、ところで気が付いた。

「靴が無い…」

玄関ホールにはいつも先輩が履いているナイキの靴が一つと、僕が脱いだブーツの片割れが申し訳なさそうに佇んでいるだけだった。

「おう、まあ中に入れよ」

僕が来たことに気付いた先輩が出迎えに来て、僕は案内されるがままに部屋へ入って行った。何回も来ている筈の先輩の家の廊下が、こんなにも長く、こんなにも静かだったこと、僕は初めて知った。

部屋に入るとテーブルの上に小さな鍋が申し訳なさそうに佇んでいた。そして、テーブルの脇にはしわしわの座布団がふたつ、静かに転がっていた。

「みんな、彼女と過ごすんだってさ…」

「そ、そうですか…」

僕らは2人、静かにビールを空け、静かに鍋をつついた。時折、隣の部屋から聞こえる若い男女たちの笑い声が、2人だけの部屋に嫌に大きく響いた。なんなんだろうクリスマスって。

そうして何事もなく無事に僕と先輩の二人だけのクリスマスは幕を落とし、健全なカップルの如く僕は日付が変わる前に家に帰る運びとなった。

「あー、ちょっと待って、ほら、これクリスマスプレゼント」

さすがに企画した側としては2人きりのクリスマスパーティなんて責任を感じてしまったみたいで、先輩はコンビニの袋の中に無造作に入れられたプレゼントを渡してきた。そりゃそうだ。責任が重すぎてフローリングぶち抜かねえかなコイツ。

中身は家に帰ってから開けろということだったので、僕らは「メリークリスマス」と言い合い、解散した。

家に帰って開けた袋の中には、先輩が使った後のエロゲが入っていた。なんか陰毛も挟まってた。

僕は静かに泣いた。そしてオナニーをして、寝た。





メリークリスマス

ゆっくりとさよならをとなえる

母方の、実家に行った。

そういえば、母方の実家、おばあちゃん家はもう2年近くも顔を出していなかったことを思い出した。嫌いなわけではなく、仲が悪い訳でもない。たまたま時間が合わなかったのだろう。大学へ通っていたときは実家にさえもなかなか帰らなかったからな。と思った。

おばあちゃんは、僕が大学2年生の時にボケ始めた。知らせを聞いて飛んで帰った僕に「よくぞ遠いところからいらっしゃいました。汚いところですがどうぞゆっくりしていって下さい。ところで、どちらさまですか?」とおばあちゃんは至極丁寧な口調で言った。

「おばあちゃん。僕だよ。孫のあきだよ」少し大きな声で、僕は言った。

「何を言ってるんですか。あきちゃんはまだ小学生じゃない。おかしなことを言う人ですね」とおばあちゃんは答えた。

その時から、おばあちゃんの家に行くのが億劫になってしまったようにも思う。

あれから何年か年を重ね、2年ぶりにおばあちゃんと会った。

おばあちゃんの隣に座って、お茶を一杯飲む。今日の天気の話と、大学を卒業したことを一方的にしゃべったあとに、またお茶を一杯。天気の話をもう一度して、それからはもう話すことがない。

なにを話しても、内容の違う言葉が返ってくるから、それにただただ相槌を打ち、少しだけ笑う。ひっそりとした部屋に、か細い声と、大きな声が時折響く。

お茶を随分と頂いた頃に、そろそろおいとましようか。と僕が言うと、ええ、ええ、とおばあちゃんは小さく答えた。

さよなら、また来るね、元気でね。僕が言うと、おばあちゃんはにっこりとして、またおいで、と返した。それからおばあちゃんに背を向けて、車へ乗りこんだ。

車で帰路に着きながら、寒いね、と、誰に言うでもなく、僕はつぶやいた。それから、家に着くまで2時間、静かに車を走らせた。